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食のプロSTORY アーカイブ

2007年9月 3日

食のプロSTORY
VOL.1<前編>チーズ職人・白糠酪恵舎 井ノ口和良氏

「僕のチーズは深化する」

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「深く化ける」と書いて「シンカ」すると読むんだ。

1つの事を深めることこそが職人の仕事であると井ノ口氏は語ります。

北海道の東、釧路市にほど近い町・白糠(しらぬか)町。
酪農、漁業、林業を主産業とする人口1万人の町。

山と川に挟まれた敷地に建つチーズ工房・酪恵舎では、

毎日400リッター程の乳から、
モッツァレッラ、リコッタなどのフレッシュチーズや、
料理に愛用されるマスカルポーネ、ロビオーラ、
そしてハードタイプのモンヴィーゾなど・・・。
北海道では珍しいイタリアタイプのチーズが作られています。

どうしてイタリアタイプを?とたずねると

「料理に使われるのは圧倒的にイタリアのチーズ。
 イタリアと日本は、それぞれ素材の持ち味を生かした食・料理文化であり、
 共通する点も多い。
 生活を豊かにする食としてのチーズを作りたかった。」

中でも工房の顔となっているのが、モッツァレッラ。

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「白糠町でチーズを作ることを考えたとき、
地元の人々と色々なタイプのチーズの試食をした。
その中で誰もが抵抗なく食べられるのがモッツァレッラだった。

僕が目指すのはイタリアのチーズではなく、
この土地に根ざしたチーズだから。

これなら豆腐感覚で買いに来て、年配の方はわさび醤油で楽しめる

なるほど、確かにイタリアではバケツに入って、
昔のお豆腐屋さんのようにモッツァレッラが売られている。

ジューシーで弾力があり、かみ締めると柔らかい乳の香りが口に広がる・・。
毎日フレッシュな出来立てを楽しめる
白糠町の人たちは、なんて贅沢なんだ、羨ましい・・・。

「基礎ができていないのに、
応用をやろうとする人が多すぎる

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初めて平凡社の「チーズ工房」という本を片手に
モッツァレッラを試作したのは、今から10年以上前のこと。

「自分の作るチーズの良し悪しすらわからなかった」と当時を振り返ります。

とにかくいろんなチーズを片っ端から食べた後に、
やっぱり我流じゃダメだとイタリアへ。


「基礎ができていないのに応用をやろうとする人が多すぎるんだよ」そう語り始めると柔和な表情が一変し、眼光鋭く、厳しい口調になります。


イタリアには2度渡り、学んだ基礎をきっちりと踏んで、
教えてもらった通りにできるまでに数年。
更にトレーニングを重ねて、ようやく販売ができるようになるまでにまた数年。

今では、販売先やコンテストでも高く評価され、
雑誌、TVなど多数のメディアからも注目されるようになりました。

「プロだからさぁ、出しても恥ずかしくないチーズはできているよ。
でもさ、まだ味に幅がある。
僕は許容範囲じゃなくてピンポイントを目指してるんだな。

この味で美味しいからいいや、じゃなくてさ、
もっともっと先を突き詰めたいんだよ」

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今もまだまだ深化し続けるチーズのストーリー、後編でお伝えします。

2007年9月19日

食のプロSTORY
VOL.1-2<後編>チーズ職人・白糠酪恵舎 井ノ口和良氏

前編では、チーズ職人としての目指すべき方向性を
「深化(しんか)」と語ってくれた井ノ口氏、

では、井ノ口氏の考える深化とは一体何でしょうか?


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それは一言でいえば「究極のバランス」であると井ノ口氏は語ります。

チーズは、
温度、タイミング、塩加減ひとつで変わる微妙なミクロの世界。

カーリョ(凝固のための酵素)を入れるタイミングひとつ、
乳酸菌の温度管理ひとつ、
PH(ぺーハー)の管理ひとつ、
カードカットひとつ・・・。

そして、モッツァレッラの命でもある
フィラトゥーラ(縦に繊維を作っていく作業)に、
サッセッタ(モッツァレッラが使っている水)の加減。

こんなに複雑な行程を経て、
緻密に計算されてチーズが作られているのかと驚いてしまいます。


カード

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上記にお湯を入れてフィラトゥーラする

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モッツァレッラが出来上がっていく

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■安易な商品は、あきられる、目先を変えてもだめだ


深化するチーズと聞くと、

新タイプのチーズへのチャレンジや、
スモークをかけたり、ハーブを混ぜたり、地元の農産物を入れたりなど
目先を変えることを考えがち。


しかし、井ノ口氏が求める深化は、

チーズそのもののポテンシャリティをあげること」であり、
技術水準をあげていくこと」にあります。


また、私たちはややもすると、いつでも同じチーズが食べられるのが当たり前と思ってしまいます。

しかし、気温や湿度の変化、
牛の状況なども相まって、原料となる乳の状態は、常に一定ではありません。

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その不安定な状態の中、
細い針の穴に糸を通すように、
井ノ口氏は、自分のチーズを研ぎ澄ますことに余念がありません。

それは、職人としての誇りであり、
チーズを買ってくれるお客様への感謝の気持ちの表れではなのです。

■この土地のチーズへ

チーズ深化は、
井ノ口氏が職人として、また自己の思いだけで
進めているわけではありません。

酪恵舎では、イベントやモニタリングなども積極的に行われており、
常に地元消費者との接点を持ち続けています。


先日、2年間にわたり、実行委員長を務めた「釧路・愛食フェア」の
2007年のフィナーレを飾る「愛食テーブルIN 釧路」が開催されました。

ここでは、地元生産者の食材を、地元のシェフが料理し、
生産者が自らサービスをするという従来にはない新しい試みが行われました。

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ランチ4回、ディナー2回で、
合計150名を超える消費者が食事を楽しみながら生産者との交流を深めました。

もちろん♪井ノ口氏も料理をサーブしながら

「いかがですか?」
「この料理の組み合わせはどう思いますか?」

と、料理と一緒に素材への愛情も運びつつ、
ユーザーニーズの汲み取りにも余念がありません。


■酪恵舎のロビオーラを使ったアイスクリーム

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こういった日々の積み重ねの中、

チーズ職人・井ノ口和良氏と、
白糠酪恵舎が作るチーズは、

いよいよこの土地の風土、ユーザーニーズにあった

「白糠町のチーズ」になろうと根付き始めているのです。

今後ますます活躍が期待される酪恵舎のチーズ、
あなたもご一緒に深化を見守ってください。

2007年10月14日

食のプロSTORY~VOL.2 養豚家・大美浪 源氏

「ホエーを飲むと、豚は目がキラキラするんだよ」

ここ数年注目される「ホエー豚」。ホエーとは、チーズを生産するときに出てくる上澄み液で、以前は産業廃棄物として処理されていたものでした。ところが、そのホエー、豚に飲ませてみたら・・・。


◆健康に育った豚こそが、美味しい豚肉である

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みなさん、こんにちは。
私の作る豚に興味を持っていただき、本当にありがとうございます。


数十年間、豚を飼育した経験から
「健康に育った豚こそが、美味しい豚肉になる」と確信しています。

豚たちの身体にね、毎日触っていると
それだけで健康状態はわかっちゃうもんなんですよ。

でもさ、時には、子豚の世話をしていて、
母豚に「キーーー」って一発やられちゃうこともあるんだなぁ。ハハハ

◆生ハムを作ろうと思ってはじめたホエー豚

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最初はね、「バカ息子が、またなんかやってるよ」といわれました(苦笑)
ホエーとは「乳清」のこと。

ヨーグルトを買うと、上に上澄みの透明な液体があるでしょ?
あれがホエーです。

チーズを作るときに、出てくる液体で、通常は捨てられてしまうんですよ。

でも、もともと僕は生ハムを作りたいと思っていてね、
色々と調べたら、パルマの生ハムは「ホエーを飲ませた豚で作る」ということを知りました。

*ホエーの中に赤く発色する乳酸菌があって着色剤を使用しないハムができる

そこで、近所にあるチーズ工房「半田ファーム」さんにお願いして、
ホエーを分けてもらったんだよね。

飲ませてみたらね、これがみんな喜んで飲むわけさ。
嬉しそうにね。


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そうして、飲ませた結果、肉がさらに美味しくなったんだけどね、
どうして肉質がよくなるのかは、わかんないんだよ。

不飽和脂肪酸が増えるとも言われているけれど、
なんかそういう数字的なことや化学的なことよりも、

僕は「豚が喜んでいる」ことの方がずっと大事だと思っている。

毎日、幸せに育った豚は、元気にすくすく育ち、余計な抗生物質も不要になるからね。

大美浪のバカ息子が・・・と言われたけれど、今では十勝のアチラコチラでホエーを飲ませて育てているよ。

つづく

~次回は、源ファームの常識はずれの飼育法をお伝えします~


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プロフィール


北村 貴(taka)
フードソムリエ代表


20年間の東京生活を経て、
2004年12月、真冬に
故郷・北海道十勝へ戻る。
よく食べ、よく遊び、よくしゃべる。
特技は四葉のクローバー探し

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